日本画部門

立島 惠(たてじま・けい)

佐藤美術館学芸部長

全体的な印象としては、丁寧に描かれた端正な作品が多く見られました。
ぎふ美術展賞受賞作「いのちの子守唄」は生命という言わば哲学的なテーマを日本画のさまざまな素材、技法を織り交ぜ果敢に表現していました。また優秀賞の「漂泊の白」は、靄に煙る都市を繊細でしなやかな線と独特な空気感で心象的に、同じく優秀賞の「鬼灯」はほおずきを高度な日本画の技法により近視眼的にあらわしている共に優れた作品でした。この3点の作品についての優劣はまったくと言ってよいほどなく、評価は非常に拮抗していたことをここに記しておきたいと思います。
残念だったのは、優れた水墨の作品がなかったこと、そしてなによりも今までの日本画を突き破るような新しい挑戦が少なかったことです。今を生きるリアリティーが表出する。そんな表現に是非挑戦していただけることを心より願います。

西田 俊英(にしだ・しゅんえい)

日本画家、武蔵野美術大学教授

第1回のぎふ美術展ということで、期待を持って審査をさせていただきました。
意欲的な作品も多数応募され、時間をかけ慎重に審査致しました。
ぎふ美術展賞に選出された「いのちの子守唄」は、生命の誕生を象徴する胎児の巨大なフォルムが大画面に描写され迫力があると同時に、美濃地方の薄美濃紙を揉み紙にし、張り合わせた複雑な表面のマチエールに、技法的にも独特な工夫がありました。半透明の羊水をイメージする余白に生命の幽かな気の流れを予感させ、画面に近づくと宇宙の粒子の一粒一粒のような無数の点描が施されていのちの波動が聞こえてくるような作品となっていました。
優秀賞の「鬼灯」は、垂らし込み法で、墨と淡彩色とが自然の滲みで溶合った流動的な空間に、写実的に細密に描かれた鬼灯のモチーフが重力から解放され、空中を浮遊しているような不思議な感覚が面白く、装飾性とリアリティが上手く共存した作品です。
もう一点の優秀賞の「漂泊の白」は、洋風な街並の一角を、ドローイングの黒と白の軽快なコントラストと多彩なハーモニーで描写されていますが、具象的な建物群は白の色面で少しずつかき消え、被膜され、やがて抽象的な構成美へと変化していく面白さに惹かれました。
奨励賞に選ばれた4作品もそれぞれに魅力ある作品でした。
「出立の鼓動」は、銀箔を上手く使用することによって、早朝のホームの動きのある空気感を表現していました。
「ヒカリへ」は、猫の視線の先に輝く平原が味わい深く、質の高いマチエールの技法が活かされていて、人間ドラマの趣がありました。
「水平線のネオン」は、大画面を日本画の岩絵具水干絵具とパステルとの混合技法で描写されていますが、色彩が美しく融合し、創造性も豊かな絵画世界を創っていました。
「木漏れ日」は、瑞々しい色彩と丹念な描写で、熱帯地方の巨樹の持つ鮮やかなエネルギーと樹葉の間の光線が共鳴し、気持ちの良い作品となりました。
その他、未来に期待できる作品も多く、次回のぎふ美術展が楽しみです。

洋画部門

小笠原 宣(おがさわら・のぶ)

洋画家

入選入賞された方々に、心からお祝い申しあげます。栄え有る“第1回 ぎふ美術展”の 歴史に名を刻まれることが出来たのですから。先ずは、落選作品を極力減らす審査を心がけ、結果的に百点を越える圧巻の洋画展示コーナーとなりました。「上手いのは 選ばないぞ!」を合言葉に若々しくも勢いのある作品展示になったのではと自負しています。 ただ、“具象命”の私としては、少し物足りなさが残ったのも事実です。自身の住み慣れた我が家・パレットに安住安眠を許さない新たな“迫真具象力作家”との出会い、心待ちにしています。

絹谷 幸二(きぬたに・こうじ)

洋画家、東京藝術大学名誉教授

多くの力作が出品された中で、第1回ぎふ美術展洋画部門におけるぎふ美術展賞は市川あずささんの作品「naive」が選ばれました。センスにあふれ、他に類を見ない正方形の組作で、進取の気持が絵に満ちており、将来が楽しみです。
優秀賞となりました土岐尚弘さんの「裸婦」は形象生命の力強さが感じられました。特に画面中央から下半身に至る筆跡は目をみはるものがあります。可知則雄さんの作は油絵のマチェールや構図に優れたものがありました。
奨励賞の有賀正季さんの大作は、ほのぼのとしたユーモアあふれる作品で年齢を越えた絵心が感じられて新鮮です。そして生命の誕生の深さを軽やかでやさしいまなざしで描いた青木千賀子さん。モノクロームで人間の苦悩を見つめた久古春輝さんなど絵画は描くその人の心の中がおのずと映し出される鏡だということを我々にしらしめてくれました。
最後に入落を問わず描く皆様の力作が数多くあったことを記しておきたいと思います。

彫刻部門

小清水漸(こしみず・すすむ)

彫刻家、京都市立芸術大学名誉教授

審査にあたって先ず抱いた印象は、素材と表現技法に偏りがなく、幅広い作品が出されているなということであった。この様に多様であると、比較しづらく審査に困るのではないかと思われた。しかし1点ずつ詳細 に見ていくにつれ、自ずから内容の深さ、技法の確かさの違いが立ち現われてきた。
ぎふ美術展賞に選ばれた作品は、鋳造技術を能く識る人の手になるものだろうと思われる。比較的小品ながら小さな空間をうまく使って、ダイナミックな動きと劇的な空間を持つ彫刻に仕上がっている。
優秀賞は、楽しみながら丹念に作られた作品と、直截な表現意志のはっきりした作品の対照的な2点が選ばれた。
今展の出品作の多様さと出品者の年齢の幅広さは、改組された「ぎふ美術展」第1回に相応しく、県民諸氏の期待の現れであろうと推察する。この展覧会の審査に立ち会うことのできた幸運に感謝している。

澄川喜一(すみかわ・きいち)

彫刻家、東京藝術大学名誉教授

清流の国ぎふ芸術祭「第1回ぎふ美術展」の審査に当たって応募作品28点を拝見し、各作品がそれぞれ個性に富み、努力作にわくわくしました。
審査の結果、田中厚好さんの「罠―WANA」が、めでたくぎふ美術展賞に選ばれました。
ブロンズ鋳造で出来る湯口(熔銅の流れ道)などをそのまま残し、鳥の彫刻とからみ合わせた不思議な「かたち」を造り出しています。
魅力的な作品として注目されました。
青木初彦さんの「TSUBAKURO」は木材と竹とはり金を使った細身の塔の上部にTSUBAKUROが舞う楽しい造形が彫刻になっていました。
その他の受賞作をはじめ、それぞれの作品の努力の結晶が発表されます。
第2回ぎふ美術展が楽しみです。

工芸部門

今泉今右衛門(いまいずみ・いまえもん)

陶芸家

工芸とは、素材や技術に対して、現代の感性で何を創造するかという部門である。
今回、審査会場での第一印象は、多種多様な作品が溢れている感じがした。一点一点丁寧に見ていくと、作家それぞれの思いが伝わり、技術・思い・感性がいかに融合されているか、未来への可能性が感じられるかが審査の判断基準になった。
入賞作のぎふ美術展賞の漆の作品は、漆の装飾素材である貝と漆の融合という感性と形状的・色彩的な美しさが評価された。優秀賞の織の作品は制作の時間の積み重ねが美しさに昇華した点が、陶芸の作品は「手」というテーマの土のマチエールの存在感の魅力が評価された。奨励賞はそれぞれ工芸の未来への可能性が感じられた。その中でも、恐竜のオブジェは形状の魅力と同時に、思いを込めるという創造の原点が感じられた。
工芸の将来に期待する審査であった。

外舘 和子(とだて・かずこ)

工芸評論家、多摩美術大学教授

工芸の素材領域は多様である。本展にも代表的な陶芸、染織、漆芸、木工、金工、七宝、ガラス、人形などのほか、綿絵、押し絵など実に多様な種類の作品が一堂に集まった。工芸の魅力は素材と技術を駆使して創造的な表現に至る事だが、単に手数をかけるだけでなく、その工程が最終的に表現効果となっている事が重要である。その上で、新鮮な発想や切り口が示されているかどうかを選考の基準とした。最高賞の「遥かなる音色 穹の響」は従来的な漆と螺鈿(貝)の関係を問い直すような、乾漆と貝の新たな関係が構築されている。自然の巻貝を加飾の材料ではなく、成形の起点に置き、それを乾漆のダイナミックなフォルムの曲面へと展開した作品である。徹底した砥ぎの技術で艶をあげたことで、表現に説得力も生まれている。工芸はアイデアだけでは形にならない。それを観る人に感動を与えるレベルにまで具現化する情熱と意欲が問われるのである。

書部門

新井 光風(あらい・こうふう)

書家、大東文化大学名誉教授

ぎふ美術展によせる出品者の熱意と共に、表現力豊かな作品と対面することが出来て大変嬉しく思います。
それぞれの作品からは努力の累積が読みとれ、当然のことですが、いい作品は見のがさない、という心構えで審査をさせて頂きました。
入賞作品は、積極的に新しい扉を切り開こうとする意欲的な作品で、一画一画から作者の心の鼓動が伝わってきます。また古典に立脚しながらも現代の風を吸い込んだ新鮮な作品、技法の練度が読みとれ、質の高さを感じます。
入選作品も多種多様で特色があり、鑑賞者を楽しませてくれることでしょう。僅差で入賞を逃した作品や、入選にならなかった作品があったと言うことを附記しておきます。
出品者みなさんのより一層のご努力とご活躍に期待してやみません。

笠嶋 忠幸(かさしま・ただゆき)

出光美術館学芸課長

新生、1回目の公募展とあって、意欲ある作品が多数集まった。書部門の出品総数は倍増。これは、応募規定が見直され、特に作品の大きさや年齢などの制限が緩やかになった事に要因があるだろう。ただし、主催側が予測していた作品基準と実際に出品された作品との間には、大きな理解の乖離があったと認められた。つまり作家的趣向の作品と、いわゆる教育現場の延長線上にある実作品とを、同じ土俵に乗せて審査することは困難なのである。そのため今回は、書体書風やテーマ、制作意図の有無、素材、そして出来映えなどの総合的観点から評価するよう意識して審査した結果、5点の秀作が受賞となった。ぎふ美術展賞の竹庵氏「除夜」をはじめとする受賞作は、いずれも練度の高い作品であったものの、現行の現代書の枠組みに沿った作風であった点に課題を残した。古典や名筆に学んだ基礎を磨くことと共に、もっと既存の枠にとらわれない、自由かつ斬新な発想による実験作も、今後は多数出品されることを期待したい。

写真部門

笠原 美智子(かさはら・みちこ)

石橋財団ブリヂストン美術館副館長

映像の時代と言われる現代、わたしたちの生活は膨大なイメージに満ちています。既視感を持つ作品が多く出品されていた一方で、独特な画面構成と視点のおもしろさが光る作品が選ばれました。日常生活の中でほんの少し見方を変えただけで、世界が途端に輝き始める。そうしたことを再認識させてくれた審査でした。気になったのは、定型句のようなタイトルや、後ろ向きの人物にレンズを向けた作品が少なくなかったこと。作品のコンセプトを伝える要素としてタイトルは非常に重要だと思います。又、人間と向かい合う手段として写真は有効な手立てだと思います。新たなぎふ美術展の今後のご進展を祈念いたします。

HASHI[橋村 奉臣](はしむら・やすおみ)

写真家

清流の国ぎふ芸術祭、第1回ぎふ美術展『写真部門』の応募作品の審査をするにあたって公開審査方式を採用されましたことは、実に明朗な手法でした。1回目の開催となった今回、特にテーマを特定せず、自由な発想で応募して貰おうとの方針からテーマが多岐にわたっているところが特長でした。応募作品の中にも面白い作品も数多く、その作品の中から特に優れている作品をぎふ美術展賞、優秀賞、奨励賞を選出しました。何をするにも第一歩が大切です。「ぎふ美術展」の『写真部門』が、いずれ世界へ発信できる魅力的なイベントに発展していくことを願います。写真文化の先進国では、既に写真は現代アートとして認知されています。日本製カメラが世界中を席捲した様に、写真作品も日本は世界の牽引役になって写真文化大国ニッポン!を目指して欲しいです。これから、応募作品が日本国内だけでなく世界中から集められ、多くの方々が「ぎふ美術展」を観に来てくださる様なイベントに発展していくことを願います。

自由表現部門

山口良臣(やまぐち・よしおみ)

美術家、名古屋市立大学名誉教授

応募作品全体を見た時、突き抜けたものが見当たらないなと感じてしまった。自由表現という枠組をどう捉えるかの問題ともいえるが、やはり絵画や書、工芸といった既存の枠組に収まったままに感じられるものが多く、そんな枠組を突き破って、これまで見たことも感じたこともないような、そんな表現には出会えなかった。そのような理由から、ぎふ美術展賞は該当なしとなってしまった。「ONE LINE ART・cube」は、一見するとありふれたグラフィック作品に見えるのだが、よく見ると画面全体が、ただ一本の線で構成されている。「ジョーの世界」は、枠組を感じさせない表現の集積となっている。両者ともに、次につながる可能性を充分に感じさせるものがあって、優秀賞とした。「ねこはいいなぁ~いつもねてばかり」は、そののびやかさに心惹かれるものがあって、奨励賞とした。

山下裕二(やました・ゆうじ)

美術史家、明治学院大学教授

今回、新たに設けられた「自由表現」部門の審査を担当させていただいた。「自由表現」というからには、旧来のカテゴリーに収まらない、突出した、エネルギーがほとばしるような表現を期待していたのだが、残念ながらそのような作品を数多く見出すことはできなかった。結果として、ぎふ美術展賞は該当作なしとなったが、優秀賞2点、奨励賞2点を選出した。まず、優秀賞の「ジョーの世界」は、伸びやかな線描による大量のドローイングを効果的に展示するもので、もっともピュアな表現意欲を感じた。同じく優秀賞の「ONE LINE ART・cube」は、一見すると単なる抽象形態のようだが、熱視すれば驚異的な一筆描きであることがわかる。私の審査員奨励賞とした「木で作る蒸気機関車D51」は、きわめて高度な技術による木工作品で、その集中力を評価した。来年以降、よりスケールの大きい、旧来のカテゴリーを逸脱する作品が集まることを期待している。